ロッカーの鍵を忘れたので制服に着替えられません。

通常の映画の撮影では、劇団に所属している「プロのエキストラ」さんだけが呼ばれる場合もありますが、公募でごく普通の一般人が集められて行われる撮影だってあるのです。わたしももともとは、そうした一般募集をきっかけにしてエキストラをはじめた人間ですが、その後映画撮影のおもしろさにのめり込むことになり、ついにこの秋には映画を撮ることになった駆け出しの監督というわけです。

さて、そんなわたしがまだまだ無名のエキストラ時代にやってしまった失敗談をご紹介します。その日は映画の撮影があり、群衆シーンのためのエキストラが集められました。その現場では、主だったエキストラにはメイクさんが簡単な化粧をしていました。たいていの現場では、エキストラは衣装からメイクまで自前というのがほとんどなので、これはとても珍しいことです。

もちろんメイクといっても簡単なものですが、何しろ人数が多かったので、まさに流れ作業のように進められていました。まず、メイクを受けるエキストラさんが決められると、更衣室に連れて行かれてカギを渡されます。さらにロッカーに自分の割り当てられた衣装と着てきた私服を一緒にしまい、一旦メイクルームへ移動し、衣装が汚れないよう、ほとんど下着姿のままメイクを受けます。わたしは怪我をした警官の役で、血糊のメイクをされました。その後ロッカーに戻って警官の制服を着るのですが、ここで事件が起きました。メイクを受けていたわずかな時間のあいだに、わたしはロッカーのカギを紛失してしまったのです。スタッフさんに事情を話すと、合鍵が事務所にあるから取り行くようにといわれました。その事務所は徒歩で15分くらいの場所にあり、そこまでに一般道で人通りもあります。わたしは半分下着姿で血糊のメイクのままそこへ向かいました。
すれ違う人はみな二度見、散歩中の犬には盛大に吠えられ、しまいには本物の警察官に職質まで受けることなりました。